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津地方裁判所四日市支部 昭和46年(ワ)47号 判決

原告

水谷国三郎

ほか一名

被告

千代田火災海上保険株式会社

ほか二名

主文

一  被告森昌也は、原告水谷国三郎に対し金三八五万円、同水谷照子に対し金三三〇万円と右各金員に対する昭和四四年四月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの右被告に対するその余の請求および被告千代田火災海上保険株式会社ならびに同安田火災海上保険株式会社に対する各請求を棄却する。

三  訴訟費用中原告らと被告千代田火災海上保険株式会社、同安田火災海上保険株式会社との間に生じたものは原告らの負担とし、同森昌也との間に生じたもののうち五分の三を同被告の、五分の二を原告らの連帯負担とする。

四  この判決は原告ら勝訴の部分に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一申立

(原告ら)

一  被告森昌也は、原告水谷国三郎に対し金五〇六万六、四四〇円、同水谷照子に対し金四三〇万円、および右各金員に対する昭和四四年四月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

一  被告千代田火災海上保険株式会社は、原告水谷国三郎に対し金一八〇万円、水谷照子に対し金一五〇万円、および右各金員に対する昭和四五年七月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

一  被告安田火災海上保険株式会社は、原告らに対し各金一五〇万円および右各金員に対する昭和四四年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

一  訴訟費用は被告らの負担とする。

一  仮執行の宣言

(被告ら)

一  原告らの各請求を棄却する。

一  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二被告森昌也に対する請求についての当事者双方の主張

一  請求原因

(一)  交通事故の発生

1 とき 昭和四四年四月一三日午後八時〇五分ころ

2 ところ 桑名市小貝須坂地内名四国道上

3 加害者(車) 被告が運転していたプリンスグロリア乗用自動車

4 被害者 右プリンスグロリア車に同乗していた訴外亡水谷静三

5 態様 訴外富田英郎が運転して対向してきた三重交通バスと衝突

6 結果 右水谷静三が全身打撲で死亡

(二)  責任原因

被告はセンターライン寄りを進行中前方不注視のため運転を誤り、本件事故を発生させたものであるから民法七〇九条の不法行為責任

(三)  損害

(1) 亡静三の逸失利益 三六〇万円

(死亡時) 一九歳、大同工業大学機械科二年

(稼働可能年数) 二二歳から五五歳までの三三年間

(収益) 年間四〇万円(賃金センサスによる)

(控除すべき生活費) 五〇パーセント

(ホフマン式により中間利息控除)

(計算式)

40万円×1/2×(19.9174 35年間の係数-1.8614 2年間の係数)≒361万1200円

のうち三六〇万円

(2) 亡静三の慰謝料 金三〇〇万円

(3) 原告らの相続

原告国三郎は亡静三の父、原告照子はその母であるので亡静三の右損害賠償請求権を二分の一ずつ相続した。

(4) 原告国三郎の固有の損害

1 葬儀関係費用(別紙明細表のとおり) 三六万六、四四〇円

2 慰謝料 一〇〇万円

3 弁護士費用 四〇万円

(5) 原告照子の固有の損害

1 慰謝料 一〇〇万円

(6) 原告らの損害合計 国三郎金五〇六万六、四四〇円

照子 金四三〇万円

(四)  よつて、被告は損害賠償金として、原告国三郎に対し金五〇六万六、四四〇円、同照子に対し、金四三〇万円と右各金員に対する事故発生の日の翌日である昭和四四年四月一四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をする義務がある。

二  被告の認否

請求原因(一)のうち、加害者が被告であるとの主張は否認し、その余の事実は全て認める。亡水谷静三が自らグロリア車を運転していた。

同(二)、(三)は全て否認する。

第三被告千代田火災海上保険株式会社に対する請求についての当事者双方の主張

一  請求原因

(一)  自動車損害賠償責任保険契約の存在

被告会社は昭和四四年三月一〇日訴外三重交通株式会社との間に、訴外会社が所有し、そのために運行の用に供せられている営業用大型バス(三重二う一、〇八五号)について、保険料を三万九、九七〇円、保険期間を昭和四四年三月一七日から同四五年四月一七日までとする自賠責保険契約を締結した。

(二)  交通事故の発生

前記被告森昌也に対する請求原因(一)(交通事故の発生)のとおり。なお、訴外富田英郎が運転し事故を起した三重交通バスに右保険契約が締結されていた。

(三)  損害

(1) 訴外亡水谷静三の逸失利益 三六〇万円

算出根拠は前記被告森昌也に対する請求原因(三)(1)のとおり。

(2) 亡静三の慰謝料 三〇〇万円

(3) 原告らの相続

原告国三郎は亡静三の父、原告照子はその母であるので亡静三の右損害賠償請求権を二分の一ずつ相続した。

(4) 原告国三郎の固有の損害

葬儀関係費用(内金) 三〇万円

(5) 原告照子の固有の損害 なし

(6) 原告らの損害合計 国三郎 三六〇万円

照子 三三〇万円

(四)  本件事故のため、訴外三重交通株式会社は原告らに対し、保有者として、前記の各損害賠償金を支払う義務がある。そこで昭和四五年六月ころ被告会社に対し、自賠法一六条にもとずいて原告国三郎は内金一八〇万円、同照子は内金一五〇万円の各支払請求したが、その支払を拒否された。

(五)  よつて、被告会社は自賠法一六条にもとずく損害賠償額の支払として原告国三郎に対し金一八〇万円、同照子に対して金一五〇万円、および右各金員に対する原告らのなした支払請求の日の後である昭和四五年七月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をする義務がある。

二  被告会社の認否

請求原因(一)、(二)四の各事実を認める。

同(三)の(1)、(2)の各事実を争う。(3)の事実は不知。(4)、(5)、(6)の各事実を争う。

三 被告会社の免責(自賠法三条但書)の抗弁

原告らの認否

(1) 三重交通バスを運転していた訴外富田英郎には以下のとおり運転上の過失はなく、事故発生はひとえに被告森昌也の過失によるものである。また、訴外三重交通株式会社には運行供用者としての過失はなかつたし、右三重交通バスには構造上の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、訴外三重交通株式会社は自賠法三条但書により免責されるので被告会社も同法一六条の損害賠償額の支払義務は存しない。

(1) 訴外富田に過失がないことおよび事故発生はひとえに被告森の過失によるとの点は否認する。

三重交通会社に運行供用者としての過失がなかつたとの点およびバスに構造上の欠陥も機能の障害もなかつたとの点については争わない。

(2) 即ち、本件事故現場は南北に通じる道路で、それぞれ片側二車線あり、前記三重交通バスはその走行車線を時速五八キロメートルで南進中、対向車線の追越車線を時速一〇〇キロメートルの高速で進行してきた前記グロリア車が、右バスの右斜前方一〇ないし二〇メートルの地点で突如センターラインを超えて進行したため瞬時のうちに右バスの右前部に衝突したものである。右グロリア車には無謀な追越をした過失があり、右バスにとつては、グロリア車のこのような走行を予想することはできず、かつセンターライン突破の事実を知つた後も時間的に右事故を回避することは不可能であつた。不可抗力の事故というべきである。

(2) 上記事故の態様は否認する。即ち、本件事故はセンターライン付近で発生した正面衝突事故である。

訴外富田と被告森の双方に前方不注視の過失があつた。バスが前方を十分注視し、左にハンドルを切りあるいは急制動をかけていれば本件事故を回避することができた。

グロリア車は約七〇〇メートル手前から発進したものであり、時速九〇キロを越えることはありえないし、当時高速で走らなければならない事情はなかつた。

(3) 右バスを運転していた訴外富田英郎は昭和二五年九月以来大型バスの運転手をして大過なく勤務し、右バスは新車で仕業点検を行い何らの異常もなかつた。

(3) 前段は否認する。後段は争わない。

第四被告安田火災海上保険株式会社に対する請求についての当事者の主張

一  請求原因

(一)  自賠責保険契約の存在

被告会社は昭和四三年一一月二七日訴外株式会社水谷製作所との間に、訴外会社が所有し、そのために運行の用に供せられている自家用乗用自動車(三重五ぬ一、一七一号)について、保険料を一万七、二三〇円保険期間を昭和四三年一一月二七日から同四五年一一月二七日までとする自賠責保険契約を締結した。

(二)  交通事故の発生

前記被告森昌也に対する請求原因(一)(交通事故の発生)のとおり。なお、右事故を起したプリンスグロリア車に右保険契約が締結されていた。

(三)  損害

前記被告千代田火災海上保険株式会社に対する請求原因(三)に同じ。

(四)  本件事故のため、訴外株式会社水谷製作所は原告らに対し、保有者として、右各損害賠償金の支払をする義務がある。そこで原告らは被告会社に対し、昭和四四年一一月ころ、自賠法一六条にもとずいてそれぞれ内金一五〇万円ずつの支払請求をしたが、その支払を拒否された。

(五)  よつて、被告会社は自賠法一六条にもとずく損害賠償額の支払として原告らに対し、それぞれ金一五〇万円および右各金員に対する原告らのなした支払請求の日の後である昭和四四年一二月二二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をする義務がある。

二  被告会社の認否

請求原因(一)の事実を認める。同(二)の事実のうち訴外亡静三が自賠法三条にいわゆる他人であることを否認し、その余の事実を認める。

同(三)の(1)、(2)の各事実を争う。(3)の事実は不知、(4)、(5)、(6)の各事実を争う。

同(四)の事実のうち、原告らが被告会社に対し支払の請求をしたが拒否したとの事実を認め、その余の事実を争う。

三 被告会社の主張

原告らの答弁

(1) 亡静三は自賠法三条の「他人」ではない。

争う。

(2) 仮りにそうでないとしても、訴外株式会社水谷製作所は本件事故の当時、グロリア車の運行に対する支配を失い、かつその運行による利益を享受していなかつた(抗弁)

従つて、(1)、(2)とも訴外水谷製作所は運行供用者責任を負担しないから、ひいて被告会社も自賠法一六条の責任を免れる。

否認する。

(3) そして右にいわゆる運行支配と運行利益の帰属の有無は日常の使用管理の状況、具体的な運行状況に照らして実質的に判断するべきものである。

争う。

(4) まず日常の運行支配と利益の帰属についてみるに、グロリア車の登録名義は訴外水谷製作所であり、その経費は右会社から支払われているのであるが、右水谷製作所は原告が中心となつてその兄二人とで経営する資本金四八〇万円、従業員九名の小規模な同族会社であり、そのような小規模な会社であるのにグロリア車を含め乗用車が三台、トラツク一台を保有していて、しかもグロリア車は原告の専用車であり私用に使うのも自由であり、家族のためにも使われていて、会社の他の人は乗ることなく、その管理は原告個人が行い、事故の一ケ月前までは原告宅庭先に常時置かれキーも原告宅に保管されていたが新しく会社名義で別のグロリア車を購入し、それを右庭先に入れたため、古いグロリア車は近くに車庫を借りて保管するようになつたのであり原告は一五年前に運転免許を取得したが、以来自己名義の車を持つたことはなく、家族には亡静三を含め他に三名の運転免許所持者がいるのにかかわらず、亡静三が一時購入したスカイライン車を除いて家庭用の車を保有したことがなかつたのであり、その後事故の一、二ケ月前、亡静三は右スカイラインを売却したため、再び毎日のように、本件事故車となつたグロリア車を乗り廻わし、コーヒーを飲みに行つたり、ドライブに行つたりし、車の中には常時、静三の所持品や、その友人の靴などを乗せていたのである。

(4)ないし(8)否認ないし争う。

訴外水谷製作所はグロリア車を所有し、自己の車庫に入れて管理していた。

原告はグロリア車を水谷製作所の業務のため使用していた。水谷製作所が原告に同車を貸与し、原告が亡静三にそれを使わせたことはない。

本件事故当時、被告森がグロリア車を運転していたが、水谷製作所は運行支配とその利益を失つてはいなかつた。

(5) 従つてこのグロリア車は税金対策上形式的に水谷製作所名義として、会社経費を流用していたにすぎないのであつて、実質的には、はじめは日常原告宅の家族の利便に供されるフアミリーカーとして事故前ころはもつぱら亡静三がその運行を支配し、運行利益を得ていたものであり、結局水谷製作所に運行支配運行利益は帰属していたものとはいえない。

(6) 仮りにそうでないとしても、少なくとも原告ら一家と水谷製作所と共に重量的に運行供用者である。

(7) 事故当日の具体的な運行支配と運行利益の帰属についてみるに、当日朝亡静三は、父原告から新四国参りのためグロリア車に乗せてほしいとの申出をことわり、即ち、他の共同保有者の運行支配を排除し午前八時三〇分ころからグロリア車に乗つて家を出て友人を誘い、名古屋、四日市まで行き、戻つて桑名市内の喫茶店で遊んだあと別の友人も交え川越町の名四国道わきにある藤田屋食堂に行つた帰り、本件事故に遭つたものである。その間右藤田食堂を出るまで亡静三がグロリア車を運転していたが事故当時は被告森が運転していた。そして事故の時点においてたまたま亡静三がグロリア車を運転していなくても、右静三はその日一日の運行目的、運行計画の立案および運行それ自体について主体的に関与していたものであるから亡静三は事故当時もグロリア車の運行を支配しかつ運行利益を享受していたものというべきである。従つて、右の観点からも右事故当時、訴外水谷製作所に運行支配と運行利益は帰属していないものというべきである。

(8) 本件事故の被害者である亡静三は、自らグロリア車を借りた本人であるから運行供用者たる地位は対内的には、訴外水谷製作所および原告から亡静三に移転しているとも考えることができる。

第五証拠関係〔略〕

理由

第一被告森昌也に対する請求原因について

(一)  請求原因(一)(交通事故)の事実中被告森がグロリア車を運転していたとの点を除き当事者間に争いがない。

そこで、〔証拠略〕を総合すると、本件事故現場は南北に通じる直線で見通しのよい国道で、幅員は一五メートルあり片側二車線ずつで左側走行車線の幅は四メートル、追越車線の幅は三・五メートル、中央には幅〇・五メートルの白線が引かれ鋲が打たれている。事故当時は夜であり三重交通バスは走行車線を、時速五八キロメートルで南進し、北進車線も走行車線、追越車線に車が円滑に進行していたそこへ被告森昌也が運転していたグロリア車が時速一〇〇キロメートル以上の高速で北進車線の追越車線上を進行してきたが、追突を避けるためかさらに前車を追い越すためか理由は不明であるが、突如中央線を突破し、ふあつという状態で右斜前方へ進入した。折りから南進中の前記三重交通バスの右前方一〇メートルないし二〇メートルの地点であつた。グロリア車のライトでグロリア車の中央線突破に気がついたバスの富田英郎運転手があわててブレーキペタルに足を乗せたかという一瞬後にはバス前部右角部に衝突した。

前掲証拠中、右認定に反しあるいは反するやに見受けられる部分は採用しない。被告森がグロリア車を運転していたことは、事故直後被告森が運転席におり、静三が助手席で既に死亡していたことおよび山本病院において、被告森が自ら運転していた旨供述し、同乗者山本道夫も被告森が運転していた旨医師や、警察官に述べていることなどによつて十分認められる。また、グロリア車は突如、センターラインを越えたものであり、バスの運転手がそれを予想することはできず、かつ、時速一〇〇キロメートル以上の高速車がバスの前方一〇ないし二〇メートルの地点でセンターラインを超えたものである以上、事故を回避する時間的余裕がなかつたことも明らかであり、結局本件事故についてバスの富田英郎運転手には何らの過失もなく、被告森が運転操作を誤りセンターラインを突如超えたという一方的過失にもとずいて本件事故が発生したものであることは明らかである。

(二)  損害について

(1)  亡静三の逸失利益

〔証拠略〕によれば亡静三は事故で死亡した当時一九歳、大同工業大学機械科二年の学生で健康な男子であつたことが認められる。そしてその稼働年数が少なくとも大学を卒業する二二歳から五五歳までの三三年間であることは経験則上容易に認めうるし、その収益は昭和四四年度賃金センサス全産業全男子労働者平均給与額によれば原告の請求する年間四〇万円を下らないことは明らかであり、また独身の若年者であることからその生活費が収益の五〇パーセント以下であることも経験則上容易に認められるので、その逸失利益を計算すると請求原因に記載された計算式のとおりであり、三六〇万円を下らないこと明らかである。

(2)  亡静三の慰謝料

亡静三は一九歳の大学生であつたのに生命を奪われたこと、事故は被告森の無謀運転によるものであること、しかし他面本件は昭和四四年の事故であり、〔証拠略〕によれば被告森は静三と親しい友人であり事故当時も一緒に遊興のため事故車に乗つていたのであることなど諸般の事情を総合すると慰謝料の金額は二〇〇万円とするのが相当である。

(3)  相続

〔証拠略〕によれば、原告らは右静三の損害賠償請求権を二分の一ずつ相続したことが認められる。

(4)  原告国三郎の固有の損害

1 〔証拠略〕によれば、葬儀関係費用として別紙明細表のとおり、金三六万六、四四〇円が支出されたことが認められる。しかし、右証拠によれば原告ら夫婦には三男二女あり、静三はその末子でまだ独身の学生であつたことでもあるので、そのような亡静三の社会的地位に照らすとき、右金額のうち金二五万円の限度で本件事故と相当因果関係があるものと認めるのが相当である。

2 慰謝料

諸般の事情を総合して、その金額は五〇万円であると認めるのが相当である。

(5)  原告照子の慰謝料

原告国三郎と同じく金五〇万円が相当である。

(6)  よつて原告国三郎の損害合計は金三五五万円、同照子のそれは金三三〇万円となり、原告国三郎の弁護士費用は認容額および事案の難易などを考慮し金三〇万円と認めるのが相当である。

第二被告千代田火災海上保険株式会社に対する請求について、

請求原因(一)、(二)四の各事実は当時事者間に争いがない。そこで損害の算定に先立つて自賠法三条但書の免責の抗弁について判断するに、三重交通バスを運転していた訴外富田英郎には何らの過失もなく、事故発生はひとえに被告森昌也の過失にもとづくものであることは、前示被告森昌也に対する請求の項で認定したとおりであるのでここに援用する。

そして、訴外三重交通株式会社に運行供用者としての過失がなかつたことおよび右バスに構造上の欠陥も機能の障害もなかつたことは原告も争わないところであるから、結局自賠法三条但書の免責の抗弁が成立し、ひいては被告会社は自賠法一六条の責任を負担しないことになるのでその余の点を判断するまでもなく、原告の請求は理由がないことに帰する。

第三被告安田火災海上保険株式会社に対する請求について

請求原因(一)の事実および同(二)の事実中亡静三が自賠法三条の他人であるか否かの点を除き当事者間に争いがない。そこで、亡静三の他人性について検討するに、〔証拠略〕を総合すれば、「被告会社の主張」事実中(4)および(7)の事実およびそれに加えて訴外株式会社水谷製作所のトラツクだけは会社自ら管理していたが三台の乗用者はいずれも原告およびその兄二人がそれぞれ管理し本件グロリア車も二年間原告の使用にまかされていたこと、亡静三が一時自分の金で購入したスカイライン車は、維持費が会社持ちでないので負担に耐えかねて売却したことなどの各事実を認めることができ、〔証拠略〕中右認定に反する部分は〔証拠略〕に照らしてたやすく信用することができない。

右認定の一連事実によれば、本件グロリア車の登録名義は訴外株式会社水谷製作所であり、同会社が税金、ガソリン代その他の経費を負担し、同会社の業務のため使われるという点からいうと同会社に同車の運行支配と運行利益が全然帰属しないものとはいえないが、他面同会社はその管理を全面的に原告国三郎にまかせて一切口を出さず使用の方法目的も原告国三郎の自由にまかせかつ、もつぱら原告一家の者だけが使用し、事故の日も原告が亡静三に使用を許し、静三はまる一日、全く同人の意思のまゝにグロリア車の運行目的、運行計画を立案し、運行をしたことからいつて亡静三はまさにグロリア車の運行支配と運行利益の帰属する運行供用者であつて自賠法三条の「他人」には該当しないものと認めるのが相当であり、原告らは訴外水谷製作所に対し、本件事故にもとずく損害賠償請求権を有しないものというべく、ひいては被告会社は自賠法一六条の責任を負担しないことに帰する。よつて、その余の点を判断するまでもなく原告らの請求は理由がない。

第四結論

そうすると、被告森昌也に対し、原告国三郎は金三八五万円、同照子は金三三〇万円と右各金員に対する本件事故の翌日である昭和四四年四月一四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で本訴請求を認容し、右被告に対するその余の各請求および被告千代田、同安田各保険会社に対する請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 加島義正)

別紙 葬儀関係費用

〈省略〉

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